AGA(男性型脱毛症)のように、髪の毛がどんどんとなくなっていくと、見た目だけでなく精神的にも少なからぬ影響を与えてしまいます。その心の傷が深くなると、うつ症状が出てしまう人もでてきます。決して軽く見るべきではない問題ですが、何が原因で薄毛になってしまうのか、ということは、本人にはわからないことが、更に厄介です。しかし、ペンシルベニア大学医学大学院の研究により、一つの可能性が見えてきました。どのようなことが原因となっているのか、理解を深めるために、薄毛のメカニズムと一緒に簡単に見ていきましょう。
そもそも、髪の毛はどのようにして生えてきているのかというと、髪の毛は肌の上に露出している毛幹と肌の下にある毛根に分けることが出来ます。毛根を更に区分すると先にある球のように膨らんだ部分を毛球といい、その中に毛母細胞があります。毛母細胞は同じく毛球の中にある毛乳頭の指示に従って、細胞分裂を行い髪の毛は伸びていくのです。髪の毛は成長期の数年は成長していき、その後に2週間から3週間位で成長が止まる退行期に移り、休止期と呼ばれる数ヶ月の間を経て、古い毛は抜けていきます。毛が抜けると言っても毛球まで抜けていくわけではなく、また新しい髪の毛が生えてくるのです。このサイクルがヘアサイクルと呼ばれて、いつも健康な髪の毛をつくりだしていきます。ただ、髪の毛が生え変わるヘアサイクルは無限に行われるのではなく、細胞分裂できる回数には限界があります。毛母細胞はおよそ40回から50回の細胞分裂を行えば寿命が来るとされています。このヘアサイクルは、頭全体ではなく髪の毛ごとに異なりますから、一度に抜けたりすることはありません。ところがAGAになると、このヘアサイクルが乱れて短期間で抜け毛が増えていきます。さて、ヘアサイクルのメカニズムにおいて、毛乳頭細胞と同じくらい重要な部分としてバルジ領域と呼ばれる毛球よりもやや浅い部分にあるところにある毛包と呼ばれる場所があります。その部分で、皮脂腺よりもやや下の部分に毛包幹細胞があります。この細胞は毛乳頭細胞と同じく、髪の毛を生やすための司令塔のような働きをしており、毛包を全体を保護するコラーゲンを分泌しながら、髪の毛が生えることを支援します。その際に問題が生じるのですが、引き起こされた細胞分裂でDNAが傷ついてしまうのです。若く健康的な状態であれば、自己修復が出来ますが年をとると修復機能も衰えます。そこで他に助けを借りようと修復に役立つ酵素を使うようになります。ところが、酵素はDNAの修復と同時にコラーゲンを分解してしまい、毛無防備になったこの幹細胞はやがて表皮の方へと押し出されていき、やがて消えてしまいます。その段階になると、髪の毛は新しく生えてこなくなり、薄毛になってしまうのです。
以上が薄毛のメカニズムとなりますが、再び髪の毛が生えてくるためには、どのような治療が有効であるのでしょうか。現在行われているのは、働かなくなった幹細胞を活性化させるために別の場所例えば腹の皮下組織にある脂肪前駆細胞を採取して、頭部に移植する治療です。そうすると毛包幹細胞は活性化して、再び髪の毛がはえてくるのです。この再生医療は、従来の治療では効果が出なかった方でも、試す価値のある治療です。自分の脂肪から採取した細胞を使うので拒絶反応がでることもありませんし、その後の副作用も心配ありません。それからまだ実用段階とはいえませんが、失われてしまうコラーゲンを補充することで、髪の毛を再生するという治療もあります。現在AGAで悩んでいる人も、将来的には解決できる可能性があるのです。